研究紹介
     
 
 
高速重イオン衝突によるC60分子の電離と分解メカニズムの研究
イオン照射法によるC60薄膜のポリマー化と放出フラーレンイオンの角度・エネルギ分布
半導体放射線検出器
低被曝X線透過撮影法
 
     
     
     
 

高速重イオン衝突によるC60分子の電離と分解メカニズムの研究

 
 

C60分子は直径0.7nmの球形で、サッカーボールと呼ばれています。60個の原子同士は強い共有結合でつながっており、非常に安定な構造をしています。

このような分子に高速のイオンが衝突するとイオンからエネルギ−をもらい、沢山の電子が放出したり、あるいは安定性が壊れて分解したりします。衝突で生成される炭素クラスタ−イオンを飛行時間法によって精密に測定することによって、電離過程や解離・分解過程の詳細を知ることができます。

 
炭素イオン衝突によるC60分解イオン片の質量分布イメージ
 
 
図-1 炭素イオン衝突によるC60分解イオン片の質量分布
 
 
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イオン照射法によるC60薄膜のポリマー化と放出フラーレンイオンの角度・エネルギ分布

 
 

Si(111)面上に作製したC60薄膜は面心立方状の結晶状態を形成します。しかし分子同士はファンデルワールス力による弱い結合のため薄膜材料としての実用性に欠けています。

この欠陥を取り除き新しい素材創製を目的としてイオン照射法によるポリマー化の研究をおこなっています。

また、イオン照射によってスパッタリングされるイオンの中にはC64や(C60)2のような特異なクラスタ−イオンが観測されます。図2はそのようなイオンの放出角度とエネルギ−分布についての測定例です。

 
4MeVのSiイオンによる薄膜C60から放出される二次イオンの角度とエネルギ−分布のグラフ
 
 
図-2 4MeVのSiイオンによる薄膜C60から放出される2次イオンの角度とエネルギ−分布
 
 
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半導体放射線検出器

 
 
(1) 電荷解放型検出器 
ホウ素(B)が添加されたSiを液体ヘリウム温度以下に冷却すると、ホウ素が正孔を捕獲します。捕獲された正孔を解放するために必要なエネルギーは約2meVで、これは超伝導体においてクーパー対を励起して準粒子とするエネルギーとほぼ同じ値です。すなわち、低温にすれば、半導体検出器においても超伝導体検出器と同様のエネルギー分解能を持つ可能性があります。このため、金属−絶縁体−半導体の構造を持つ素子の製作をおこなっています。
   
(2) InSb化合物半導体検出器 
放射線検出器が高いエネルギー分解能を持つためには、放射線が検出器の中で電荷を作るために必要なエネルギーが小さいことが必要です。シリコンでは3.6eVのエネルギーで一組の電子・正孔対が生成されますが、InSbではおよそ0.5eVで電子・正孔対ができます。このことは同じエネルギーが与えられたときに、InSbではシリコンの約7倍の数の電子・正孔対ができる事を意味し、エネルギー分解能としてはシリコン検出器の2-3倍の能力を持つことになります。ただし、欠点としては、室温でも熱エネルギーで電子・正孔対ができてしまい、雑音が多い、ということです。このため、InSbを検出器の母材として利用するためには、温度を低くしてやる必要があります。われわれは、世界で初めて、Insbを用いた放射線検出器を製作し、アルファ粒子のエネルギー測定をおこないました。
 
InSb検出器によって測定されたアルファ粒子のパルスのグラフ
 
 
図-3
 
InSb検出器によって測定されたアルファ粒子のパルス。動作温度は0.5K。
挿入図の速い立ち上がりが電子、遅い立ち上がりが正孔による寄与。
 
 
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低被曝X線透過撮影法

 
 

ガンなどの病巣の発見にはCT検査が有効ですが、現在のCT検査では胸部レントゲン撮影時の被曝量の100倍から1000倍の被曝があります。

このCT検査時の被曝量を低減し、CT検査を毎年の健康診断に組み入れる事を将来の目標として、CT用の高性能X線検出器の開発を始めました。

特に、ヨウ素などの造影剤を検出することを目的として、フィルターX線のエネルギー情報を利用することにより、白色X線を用いる場合の40%程度の被曝量にすることができます。また、X線測定のための高効率、高計数率検出器の開発もおこなっています。

 
エネルギースペクトルのグラフ
 
 
図-4
 
ランタン(La)フィルターを用いたフィルターX線が厚さ100μmのヨウ素(I)造影剤を含む水20cmを通過したあとのエネルギースペクトル。LaとIのK吸収端がはっきりと観測できる。
 
 
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