平成13(2001)年度 共同利用加速器による研究実験
京都大学大学院工学研究科附属量子理工学研究実験センター
イオンビームによる核材料の研究
高木 郁二、折田 修一、阪本 浩之、長岡 真一、白井 一志、西田 直樹、原口龍将。
工学研究科原子核工学専攻 核材料・核燃料研究(Aグループ)
1)研究の目的・背景(これまでの成果を含む)
・軽水炉燃料被覆管の水素脆化や腐食等の現象を単純化した系で観察し、そのメカニズムを探ることによって、被覆管の健全性を評価するための基礎的な知見を得る。
・核融合炉プラズマ対向壁材料における燃料粒子(水素同位体)の熱的・非熱的挙動について実験的に研究し、水素リサイクリング評価に必要な反射、再結合など現象、トリチウムインベントリ評価に必要な捕捉現象、トリチウム漏洩量評価に必要な透過現象、ダイバータ損耗量評価に必要な化学スパッタリング現象などについて、素となる過程を解明する。また、これらの現象に耐性を有する材料開発の研究を行う。
2)独創性・新規性
軽水炉材料や核融合炉材料などの核材料に関する研究は幅広く行われているが、一般には材料内部で起こっている現象を、材料外部に現れる変化から推測する手法が用いられている。材料内部を見ようとすれば破壊的にならざるを得ず、連続した変化を捕らえることは困難である。
本研究の独創性は、イオンビームを用いて、材料内部の現象を非破壊的にその場観察することにある。一例を挙げると、プラズマ対向壁として用いられている黒鉛に重水素プラズマを照射し、その照射面をその場でイオンビーム分析することによって、黒鉛表面近傍における重水素の深さ方向分布の変化を時々刻々と観察する方法を用いる。従来用いられてきた熱放出法(TDS)では、一旦試料内部に吸蔵させた水素が、再び表面から放出される様子を観察するため、試料内部から放出に至る様々な過程一拡散、脱トラップ、再結合など−のうち、どの過程が律速であるかを知ることは困難であったが、ビーム分析によって深さ方向分布を観察すれば、律速過程を容易に同定することができる。また、深さ方向分布の変化から、その過程における反応速度を知ることもできる。
3)学会や社会への貢献
軽水炉は現行の主要なエネルギー源であり、核融合は将来のエネルギー源となり得る。現行の軽水炉においては、その技術は確立されているものの、廃棄物量の減少や経済性の向上を目指して、尚も技術開発が進められている。安全性の確保はこれらの技術開発の成果に必ず含められるものでなければならず、高放射線場、高温、高圧という過酷な環境にある軽水炉材料においては、脆化や腐食の問題を抜きにして、技術開発はあり得ない。
核融合炉においては、既に臨界プラズマ条件が達成されており、次の目標である定常プラズマ燃焼実験がITER(国際熱核融合炉)で計画されている現在においては、炉工学の重要性が極めて大きくなってきた。炉工学が解決しなければならない諸問題の一つとして、燃料であるトリチウムの閉込め、回収、取扱い技術が挙げられる。DT反応によって発生した中性子1個から、平均して1個以上のトリチウムを製造、回収しなければならないことと、放射性であることから、トリチウムの透過漏洩、壁中の保持、プラズマ領域へのリサイク
リング等の現象を定量的に把握し、これらの現象に適した材料を開発していくことは、炉を成立させるために必須である。
4)装置を必要とする理由とマシンタイム数の必要理由
2)で述べたように、本研究の特徴はイオンビーム分析を用いる点にあり、MeV加速器を必要とする。マシンタイム数は以下のように必要である。
・イオンビーム分析実験装置 軽水炉材料の脆化・腐食環境を模擬するため、材料表面に各種のイオンを インプラントする。1日に1種のイオンをインプラントするとして、4日(4種類)が必要である。
・重イオン核物性実験装置 RBS、NRA、ERDAなどのビーム分析を専用チャンバを用いて行う。水 素同位体の捕捉に関する実験ではプラズマ照射とビーム分析を同時に行い、3週(6試料分)必要である。
水素同位体の反射・再結合に関する実験も同様に同時に行い、1週(2試料分)必要である。軽水炉燃料 被覆管に関する実験では、ビームを50μm程度に絞って試料表面を1次元的に走査するなど、低濃度の試料を低密度ビームで分析するため、3週(約30試料分)必要である。
エネルギー化学的手法による材料創製(イオンビーム実験装置利用)
伊藤 靖彦、萩原 理加、野平 俊之、後藤 琢也、江間 惠子、錦織 徳二郎、大石 哲雄、
小西 宏和、喬 歓、飯田 貴久、佐藤 雄太、辻村 浩行、中島 裕徳、笠嶋 丈夫、岸本 秀一、佐伯 哲平、松本 一彦、神原 寛幸、田中 拓海、村上 毅、安田 幸司。
エネルギー科学研究科 エネルギー基礎科学専攻エネルギー化学
1)研究の目的・背景(これまでの成果を含む)
近年、希土類(RE)−遷移金属合金は、水素吸蔵性、触媒性、強磁性、磁歪特性等の優れた機能性を有することから、大変注目されている。ここで、これらの合金を、任意の基板上に薄膜状に形成させることが可能になれば、さらにその用途が広がることが期待できる。また、合金薄膜の組成、膜厚、結晶性、組織構造等を任意に制御することで、より高い機能性や新規な機能性が発現することも期待できる。このような背景から、申請者らは、希土類−遷移金属合金薄膜の新規な形成法として「溶融塩電気化学プロセス」を提案し、研究を行ってきた。本手法の特長としては、
- 電気化学パラメータ(電位、電流密度等)による組成、膜厚、組織構造の制御が可能、
- 複雑な形状や大面積の基板に対しても合金形成が可能、
- 装置構成がシンプルなためスケール選択が自由かつ実用化の際に低コスト化が可能、
等を挙げることができる。これまでに、主に溶融LiCl-KCl-RECl3系において、Sc-Ni、Y-Ni、La-Ni、Ce-Ni、Pr-Ni、Nd-Ni、Sm-Ni、Tb-Ni、Dy-Ni、Yb-Ni、Y-Pd、La-Pd、Ce-Pd、Sm-Co、Dy-Feの形成が可能であることが確認されている。特にRE-Ni合金に関しては、RENi2相が冶金的手法に較べて非常に高速に形成し、その形成速度が電解電位に依存することを見出しており、申請者等はこれを「電気化学インプランテーション」と命名した。さらに、一度形成させたRENi2相を電極として、REを選択的にアノード溶出させると、電解電位に応じて複数の他の合金相へ短時間に変化させうることも分かった。ここでは、電解後の合金層が多孔質になることも確認されており、申請者らはこれを「電気化学ディスプランテーション」と命名した。このように、工学的に重要で、学術的にも興味深い「溶融塩電気化学プロセスによる希土類−遷移金属合金の形成」に関して、その形成初期過程を調べるために、RBSを用いて、電極表面の希土類元素の濃度プロファイルを測定することを目的としている。
2)独創性・新規性
希土類−遷移金属合金薄膜の形成法としては、CVD、PVD等が挙げられるが、高価な真空装置を要し、また、複雑な形状の基板への形成には難がある。一方で、本研究で用いる「溶融塩電気化学プロセス」は、従来報告例のない、全く新規な方法であり、装置構成がシンプルにもかかわらず、大面積かつ複雑な形状の基板への合金形成が可能である。特に電気化学インプランテーション/ディスプランテーションという手法は、工学的にも、学術的にも非常に独創性の高いものである。これらのプロセスのメカニズムを解明するために、RBSを用いて、合金形成の初期過程を明らかにしようとする本研究は、非常に独創性・新規性に富んでいる。
3)学会や社会への貢献(予想される成果を含む)
本研究により、電気化学インプランテーション/ディスプランテーションをはじめとする「溶融塩電気化学プロセス」のメカニズムが解明され、新規な機能性材料形成法として工学的応用への指針が得られれば、関連する学会だけでなく、産業界へのインパクトも非常に大きいと予想される。
4)装置を必要とする理由とマシンタイム数の必要理由
上記の目的の研究を遂行するに当たり、材料表面の元素の濃度プロファイルを非破壊で測定することができるRBSは、非常に強力な測定手法である。1回の測定のサンプル数は20-30個であるので、1/2週で十分であり、これを年2回行う必要があるため、計1週のマシンタイムが必要である。
エネルギー化学的手法による材料創製(重イオン核物性実験装置利用)
伊藤 靖彦、萩原 理加、野平 俊之、後藤 琢也、江間 惠子、錦織 徳二郎、大石 哲雄、
小西 宏和、喬 歓、飯田 貴久、佐藤 雄太、辻村 浩行、中島 裕徳、笠嶋 丈夫、岸本 秀一、佐伯 哲平、松本 一彦、神原 寛幸、田中 拓海、村上 毅、安田 幸司。
エネルギー科学研究科 エネルギー基礎科学専攻エネルギー化学
1)研究の目的・背景(これまでの成果を含む)
近年、エネルギー・環境問題に関する危機感は日増しに高まっており、その解決策のエースとして水素エネルギーシステムへの期待は非常に大きくなっている。しかしながら、水素は、優れたエネルギー変換性・環境調和性を持つ反面、容易に金属内を透過し、場合によっては極端な材料の脆化を引き起こす。特に、水素エネルギーシステムの構築に当たっては、トータルのエネルギー効率を考えた場合、高温作動が有利なケースが多いため、高温においても優れた水素遮断性を持つ材料の開発・評価が不可欠になると予想される。
しかしながら、現在までに、常温付近における材料の水素透過性・遮断性に関する研究は、かなり報告例があるが、高温(300℃以上)における研究例は、非常に少なく、研究手法も確立されていない。このような背景から、申請者等は、高温における金属材料の水素遮断性を研究する手法として、溶融塩を電解質として用いる電気化学的方法と粒子線分析であるERDを組み合わせる方法を新たに確立した。現在までに、水素遮断材料として窒化チタンに注目し、400℃付近において優れた水素遮断性を持つことを確認している。本研究では、窒化チタンに関して窒素濃度依存性、膜厚依存性、組織形態依存性に関してさらなる検討を行うとともに、新規な材料に関しても検討を行うことを目的としている。
2)独創性・新規性
現在までに、高温における水素遮断性を評価する方法は確立されていなかったが、申請者等は、溶融塩を電解質とした電気化学手法とERDによる水素濃度プロファイルの測定を組み合わせ、全く新規な評価法を確立した。水素遮断性を持つ材料として最初に選択した窒化チタンに関しても、その水素遮断性が窒素濃度や膜厚だけでなく、組織形態にも依存することを見出している。このようなアプローチ法は、申請者等が、電気化学だけでなく金属組織学や粒子線分析の知識を有することにより生み出された、非常に独創性に富むものである。
3)学会や社会への貢献(予想される成果を含む)
本研究により、高温における水素遮断材料の評価法がより高度なものとなり、有望な材料が見出され、さらに高性能な材料を開発するための指針が得られることが期待できる。その場合、水素エネルギーシステム実現へ大きく貢献するだけでなく、波及効果として、核融合分野における隔壁材料の研究へも大きく影響を与えることが予想される。
4)装置を必要とする理由とマシンタイム数の必要理由
上記の目的の研究を遂行するに当たり、材料表面の水素の濃度プロファイルを非破壊で測定することができるERDは、非常に強力な測定手法である。1回の測定のサンプル数は10-20個であるので1週で十分であり、これを年2回行う必要があるため、計2週のマシンタイムが必要である。
伝熱面の改質と分析
河原 全作、高橋 修。
工学研究科原子核工学専攻 核エネルギー変換工学 (Fグループ)
1)研究の目的・背景(これまでの成果を含む)
近年、伝熱工学においてミクロな視点での研究が重要視されてきており、単に力学的(熱力学的・流体力学的)観点からだけではなく、物理化学的な側面からの研究が必要になってきている。特に、沸騰などの相変化を伴う現象は、表面の物理化学的な性質がその特定に大きく影響することは従来より知られていたが、実際の利用において表面の物理化学的な性質を考慮し制御しようとする例は少ないが現状である。対象とする物体や空間が非常に小さい場合には、この物理化学的特性を理解し制御することで高性能の伝熱面を得ることが期待される。このような背景から、本研究を行っている。
2)独創性・新規性
伝熱工学の分野での加速器利用は、我々の研究グループ以外にはほとんど行われていない。その最も大きな理由は、熱流体工学研究者に対する加速器利用のしきいの高さである。
この点で、原子核工学専攻に属する本グループの行う研究は、加速器の伝熱工学への利用という点で、伝熱工学分野での新たな研究手法の確立という点から独創性・新規性は大きい。
3)学会や社会への貢献
本研究では、イオン照射による伝熱面の改質を行うことにより、高性能の沸騰伝熱面の開発を目指す。また、金属薄板型のヒートパイプの内部流動を分析し可視化することにより、ヒートパイプ内部での伝熱流動を解明するとともに、その高性能化を図ることを目指している。伝熱学の分野では、高熱流束の熱除去システムの開発の要請が常にあり、年々高度化している。表面の物理化学的な性質と界面における熱物質移動の関係をミクロな観点から研究することにより、伝熱学分野に対する学術的貢献とともに、その知見による伝熱面の高性能化への展開により、社会的にも貢献することが期待できる。
4)装置を必要とする理由とマシンタイム数の必要理由
重イオンバンデでは、伝熱面となる金属表面に選択的にイオンを打ち込むことにより、伝熱面の表面に仕事関数の空間的な分布を作り、濡れ性の変化などによる沸騰に対する特殊な性能を持つ伝熱面の開発を図る。そのために、マシンタイムを1週間必要とする。
一方、電子バンデは、金属薄板型ヒートパイプの内部流動を可視化し分析することを目的として使用する。電子バンデも1週間の利用期間が必要である。
PIXE,RBS,PIGEによる微量元素分析
森谷 公一、河野益近。
工学研究科原子核工学専攻 応用放射線工学 (Iグループ)
1)研究の目的・背景(これまでの成果を含む)
a.純元素の標準スペクトルの作製 b.高分解能X線検出器の開発 これらをとうしてPIXE分析のより良い分析精度の開発を目指す。
2)独創性・新規性
標準スペクトルの一覧表を作り標準資料とする。このためにも高高分解能の検出装置が必要である。
3)学会や社会への貢献
標準的なスペクトル集としてまとめる。
4)装置を必要とする理由とマシンタイム数の必要理由
エネルギーや照射粒子によるいろいろな条件を必要とする。
半導体に対する荷電粒子照射
秦 和夫、金澤 哲、(*)岡田 守民。
工学研究科原子核工学専攻 中性子工学・放射線物理学(Nグループ)、(*)原子炉実験所。
1)研究の目的・背景(これまでの成果を含む)
背景 耐放射線および耐熱性の半導体素子の開発
目的 放射線による半導体中に発生する照射欠陥の解明
2)独創性・新規性
照射欠陥についての体系的な解明は、未だなされていない。
3)学会や社会への貢献
照射欠陥の解明がされれば、学会および実際の半導体素子の開発に貢献できる。
4)装置を必要とする理由とマシンタイム数の必要理由
荷電粒子を加速して、半導体素子に照射するためにおよび照射効果を測定するために必要である。
種々のイオンを加速するため、1週間単位を必要とする。また、予備的な実験を行って検討する必要があので年間3週間は使用したい。
高速荷電粒子によるナノスケ−ル物質現象の基礎と応用
伊藤 秋男、神野 郁夫、吉田 紘二、間嶋 拓也、吉原 文樹、余語 覚文、野内 亮、小畑 史生、松永 大輔、鯨崎 豊仁、前瀧 聡、(*)中井 陽一、(**)土田 秀次、(***)菅井 勲。
工学研究科原子核工学専攻 量子線極環境物質工学(Qグループ)、(*)理化学研究所、(**)奈良女子大学、(***)高エネルギー加速器機構
1)研究の目的・背景(これまでの成果を含む)
イオンと原子との間で起こる衝突現象に関わる研究は1世紀に及ぶ歴史があるものの、総じて比較的単純な衝突系(孤立原子、数原子からなる分子)に対する理解が殆どである。特に、高速重イオンの関与する衝突は、非弾性的エネルギ−付与過程すなわち電子的励起過程が支配的となり、多重電離(原子)、分解(分子)、変質(固体)等様々なナノスケ−ルレベルでの現象が観測されるが、基礎的側面からの解明には至っていないのが実状である。
本研究室ではこれら物質現象の解明を目的に、幾つかのサブテ−マに対して研究を行ってきている。得られた研究成果は過去2年においてジャ−ナル誌(20編)、国際会議(15編)、国内学会等における口頭発表(約10件/年)で発表している。本研究はこれらの成果に基づき更に高度な研究推進を目的としている。具体的には以下のテ−マについて行う予定である。
- フラ−レン粒子の衝突阻止能
- 二次電子放出における非線型クラスタ-効果
- 荷電粒子照射によるフラ−レン膜の重合化
- ガスクラスタ−ビ−ムと高速イオンとの交差衝突過程
- 半導体結晶の放射線損傷効果と検出器開発
- 結晶性薄膜の構造解析・元素分析
- 粒子ビ−ムを利用した新測定技術開発
2)独創性・新規性
フラ−レン粒子など原子と固体の中間に位置する物質に関する衝突現象の基礎的研究例は、当研究室を含め世界的にもまだ僅少であり、得られた知見の多くは従来にない全く新しい情報として認識されている。
本研究は、中間物質相に対するエネルギ−付与機構の2つの側面(加法則、集団効果=非線型量子効果)を様々な衝突条件の元で解明することを目的の一つとしており、従来に無い新しい研究方法を提供するものである。
応用の観点では、本研究は「高速イオンビ−ムによる高い電子的エネルギ−付与作用」を利用した物質の改質を目的としており、従来に無い新規な方法として工業的付加価値の高い新たな物質創製を実現できる可能性を秘めている。
3)学会や社会への貢献(予想される成果を含む)
a)クラスタ−粒子を利用した研究では、非線型量子現象を系統的に解明することが可能であるため、既存モデルの検証ならびに新たなモデルの提案が可能となり、複雑系におけるエネルギ−付与過程を明らかにすることができる。
b)固体内でのエネルギ−分配/緩和過程をミクロレベルで解明することにより、新規な物性を有する新素材の開発あるいは新型放射線検出器の開発が可能である。
c)ビ−ムハンドリング技術、真空技術の開発により新しい切り口からの研究アプロ−チが可能である。
4)装置を必要とする理由とマシンタイム数の必要理由
本研究は上述のように複数のサブテ−マからなり、様々なイオン種・エネルギ−のビ−ムを必要とする。そのため、気体系のイオンビ−ム用に主として重イオンバンデ加速器、固体系イオンビ−ム用にタンデトロン(ビ−ム分析装置)、の両機種を用いる必要がある。
具体的には上記テ−マ1,3,4,7)に対しタンデトロン7.5週、テ−マ1,2,5,6)に対し重イオンバンデ13週程度が必要である。夫々のテ−マについて、予備実験、本実験、再確認実験の3段階で推し進める予定である。
水素挙動・ナノ結晶
今西 信嗣、今井 誠、矢島 千秋、池田 光晴、二宮 啓、久原 龍夫、五味 俊一、光末 竜太、中川 勝晴、門野 利治、岡本 泰治、今田 千景、近藤 諭、永井 雅史。
工学研究科原子核工学専攻 量子ビーム科学(Zグループ)
1)研究の目的・背景(これまでの成果を含む)
当グループではこれまでの水素挙動研究において、イオン注入法を用いると添加元素であるSiや水素を過固溶させることができ、さらに昇温により水素が界面にトラップされるという結果を得ている。また、絶縁体内に微小結晶を形成させるポーラスSiの発見以来、Si系LEDの可能性が見出され、産学を問わず様々な研究が成されている。
本研究においては、水素挙動研究において得た元素の過固溶・水素のトラッピングなどの知識を総動員し、イオン注入法による固体内部でのナノクリスタル作成を目的とした研究を行う。
蒸着法やレーザアブレーションなどの在来法では、固体表面上におけるナノクリスタル形成が主であり、実用レベルのデバイスが作成されていないのはもちろんのこと、その発光機構、ナノクリスタルの形成条件すら確立されていない。
2)独創性・新規性
我々は、従来の固体表面へ量子ドットを作成する方式を離れ、イオン注入を利用して固体内部にナノクリスタルを形成する方法により、表面状態に依存しない、安定した界面の量子状態の実現を目指す。
イオン注入法を用いるとSiを過固溶させることができるためナノクリスタルを形成し易すく、注入エネルギー,注入量を変えることで、粒径やその分布が容易に操作できることが、最適な結晶作成や発光機構の解明に適している。
また近年、クリスタル作成の際、水素雰囲気中でアニーリングを行うと発光効率が著しく向上することが報告されたが、イオン注入法によるナノクリスタル形成に関しても、我々がこれまで研究してきた、水素イオン注入と昇温による水素トラッピング機構を応用し、水素作用による発光効率の向上とその機構解明を目指す。
3)学会や社会への貢献(予想される成果を含む)
現在、発光材料はその発光機構の解明という基礎的側面から、次世代ディスプレイや、青色LEDなどの開発など応用的側面に至るまで様々な研究がなされている。特に発光材の波長、強度はもちろんのこと消費電力も重要な課題であり、本研究で発光機構の解明を中心におこない、高性能発光素子の開発を試みる。
得られた研究成果は日本原子力学会や国際学会で報告する予定である。
4)装置を必要とする理由とマシンタイム数の必要理由
研究のためには、ナノクリスタル生成と添加元素の注入のための注入器と、作成した試料を分析するためのMeVエネルギー加速器が不可欠であり、試料作成と分析が同時に行える量子理工学研究実験センターが最適な研究環境である。
条件を変えながら作成・分析を繰り返し、最適条件を求めるためには、加速器を用いない測定なども考慮すると、ほぼ一月毎にマシンタイムが利用できることが研究の発展のために好ましい。
金属イオン電荷変換
今西 信嗣、今井 誠、矢島 千秋、池田 光晴、二宮 啓、久原 龍夫、五味 俊一、光末 竜太、中川 勝晴、門野 利治、岡本 泰治、今田 千景、近藤 諭、永井 雅史。
工学研究科原子核工学専攻 量子ビーム科学(Zグループ)
1)研究の目的・背景(これまでの成果を含む)
低エネルギー領域における電荷変換には、分子軌道の動的生成など、固体物性・機能性分子設計に不可欠な基礎過程が含まれている。また、人類挙げての挑戦の一つである核融合炉の実現の観点からも、プラズマの制御・計測のためのデータ要求がある。
2)独創性・新規性
低エネルギー金属イオン電荷変換の実験測定は、従来測定例がほとんどなく、当グループが昨年度までに測定したCr, Niのデータは世界で唯一の測定である。
イオンの生成にMeV分子イオンによる金属の衝撃を利用し、エネルギー分布巾の小さい良好な入射ビームにより、電荷変換断面積の絶対値測定と機構解明を行っている。
3)学会や社会への貢献(予想される成果を含む)
核融合炉実現のためには、プラズマからの灰・不純物の除去が不可欠であり、電荷変換による段階的中性化を利用しなければならない。不純物金属イオンの電荷変換断面積の正確な値は、人類のエネルギー問題の一端を担うことになる。
4)装置を必要とする理由とマシンタイム数の必要理由
研究の主要な部分は、電荷変換断面積の絶対測定という非常に微妙なものであり、細かな装置調整や日常の保守が欠かせないため、測定装置を恒常的に設置し、常に調整を行える量子理工学研究実験センターが最適な研究環境である。
条件を変えながら測定を繰り返し、研究を進めるためには、加速器を用いない測定なども考慮すると、ほぼ一月毎にマシンタイムが利用できることが好ましい。
イオン固体相互作用(スパッタ,表面他)
今西 信嗣、今井 誠、矢島 千秋、池田 光晴、二宮 啓、久原 龍夫、五味 俊一、光末 竜太、中川 勝晴、門野 利治、岡本 泰治、今田 千景、近藤 諭、永井 雅史。
工学研究科原子核工学専攻 量子ビーム科学(Zグループ)
1)研究の目的・背景(これまでの成果を含む)
比較的高いMeV程度のエネルギーをもつ重イオンを固体に照射すると、固体表面から中性や正負の電荷を帯びた粒子が放出される。
これまでの当グループの実験で、不導体のSiO2やAl2O3のターゲットからは高質量のクラスターイオンが放出されるが、導体や半導体のターゲットからは、ほぼ単原子イオンのみ(多価を含む)しか放出されないという現象が観測されている。
同じ絶縁体でもSiO2とAl2O3ターゲットでは異なる放出機構が働いていることを示唆する結果を得ており、現在検討中である。また、12年度の最後にGaAsをターゲットとして実験を行ったが、予想に反してGaの単原子イオンしか放出されず、二次イオンスペクトルにAsのイオンはまったく見られなかった。
2)独創性・新規性
電子的スパッタリングが支配的となる領域でのスパッタリング機構を明らかにすべく、ターゲットの種類や電気的物性を変えながら、単原子イオンのみならず高質量クラスターまで検出している測定例は他に見られない。
12年度に予想外の結果が得られたGaAsターゲットに関する測定では、研究の進展によっては、スパッタリングに関する新たな現象が確定する可能性もある。
3)学会や社会への貢献(予想される成果を含む)
21世紀の技術と言われるナノテクノロジーの分野を発展させていくのには、電子レベルの現象を正確に理解し、制御することが必要である。スパッタリング機構を理解し利用すれば、ナノテクノロジーにおける飛躍的な性能向上や新分野の開拓に貢献できるものと考えられる。
13年度の測定では、新たな絶縁体ターゲットとしてMgOを使い、SiO2型Al2O3型どちらの放出特性を示すかを測定し、現在検討中の絶縁体ターゲットにおける電子的スパッタリング機構の解明に資する。
また、12年度最後に予想外の結果が得られたGaAsターゲットにつき引き続き測定を進め、GaP, GaNなど同じVX族化合物半導体でも実験を行う。スパッタリングに関する新たな現象が確定する可能性もある。
4)装置を必要とする理由とマシンタイム数の必要理由
研究遂行のためには、MeV領域で加速イオン・価数・エネルギーを自由に変えられる加速器が必要である。また、TOF測定を行うためのビームチョッピング装置などの付加設備も必要となり、これら条件を満たす最適な環境が量子理工学研究実験センターである。研究の効率的遂行のためには、一月に2*1/2週程度のマシンタイムを必要とする。
大気エアロゾルの元素分析
笠原 三紀夫、山本 浩平、馬 昌珍、大西 裕介、井ノ口 優芽、堀内 健司、伊藤 圭介、小林 信雄、山ア 悟志。
エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 エネルギー社会環境学講座 エネルギー環境学分野
1)研究の目的・背景(これまでの成果を含む)
現在、地球環境問題として地球温暖化や酸性雨、オゾン層の破壊、海洋汚染などがあります。これらの問題は地球規模で行われており、単に自国内の対策で解決できる問題ではないことから、経済活動や政策、先進国と発展途上国の問題などが複雑に絡み合い、問題の解決を複雑化しております。
地球温暖化につきましてはCOP3(国連気候変動枠組条約第3回締約国会議)が京都で行われ、2010年度の基準について話し合われましたが、研究者の中でも地球は温暖化していないという人もいます。それは温室効果ガスによる影響の数値化については信頼性がありますが、その他の影響(エアロゾル粒子による散乱や雲による日射光の反射など)については信頼性に乏しいデータであることも一つの要因です。
これらについて詳細なデータを求めることはその後の政策論のためにも必要不可欠であるといえます。
2)独創性・新規性
本研究室では採取した粒子についてPIXE法で元素分析、イオンクロマトグラフィ法でイオン分析を行い、粒度分布を求めていますが、同時に放射についてのデータも得ており、粒子の化学組成からモデル化を行い、放射の計算値と実測値を比較することを行っております。
3)学会や社会への貢献(予想される成果を含む)
大気エアロゾル粒子は地球温暖化や酸性雨といった地球環境問題と密接に関わっています。
大気エアロゾル粒子には太陽からの放射を散乱及び吸収する能力を持ち、散乱が多ければ冷却化、吸収が多ければ温暖化につながります。
大気エアロゾル粒子が温暖化あるいは冷却化につながるかは粒子径と粒子の化学組成によって決定されます。しかしこれらは未解明の部分が多く、影響評価をする際、これらの影響を数値化することが困難となっております。
これらの検討を行うことで、地球温度の将来予測を含めた地球温暖化の詳細な検討ができるものと考えられます。また、酸性雨問題につきましては、大気中の汚染物質が雨水によって洗い流され、地圏、水圏に移ることが大まかにわかってきました。
しかしこれらは物理的な式でモデル化されたものが多く、これらを実験的に化学組成を検討したものは少ないことが事実です。また、個々の雨滴を対象とした実験も少なく、雨滴の粒径によってどのように汚染物質を取り込む機構が違うかを実験的に検討することはその量の小ささ及び濃度の低さから困難となっております。
これらの問題は高感度で微量分析を行うことができるPIXE法によって実験的に検討できるものであると考えられます。
4)装置を必要とする理由とマシンタイム数の必要理由
大気エアロゾル粒子は短期間で大きく変動するため、長期間試料を捕集することは濃度を平均化してしまうためできるだけ短時間に捕集する必要があります。ここで時間変動のデータを得るためには多数の試料ができてしまうこととなります。
また、大気エアロゾル粒子の特性のなかで重要なものの一つとして親・疎水性が挙げられます。水溶性粒子はは凝結核粒子として働く、あるいは高湿度時に吸湿して粒子径が大きくなるなどの影響があります。これらを見るためには粒子を水溶性、不溶性に分級する必要があります。
さらに、エアロゾル粒子の粒度分布を観察する場合、アンダーセンサンプラーと呼ばれる、慣性力を用いて粒子径ごとに分級する装置を使用します。この装置を利用した場合、13段に分級することとなり、上述したことからそれだけ分析試料が増えることとなります。よってマシンタイムをこのような形で申請いたしました。
エネルギー材料の照射と分析
森谷 公一、(*)森山 裕丈。
工学研究科原子核工学専攻 応用放射線工学 (Iグループ)、(*)原子炉実験所
1)研究の目的・背景(これまでの成果を含む)
核融合炉におけるトリチウム増殖材としてのリチウムセラミックス材料における照射欠陥の影響と挙動に関する研究。 すでに、Li2O,Li2SiO3,Li4SiO4などについての照射欠陥モデルを提案している。さらにこれらの確認と再現性を押さえる。また、新しくアルミニウム系の材料における実験を行う。
2)独創性・新規性
新たな新規性はないが、In-Situ測定としての独自性を持っている。
3)学会や社会への貢献(予想される成果を含む)
学会発表と論文の投稿を考えている。
4)装置を必要とする理由とマシンタイム数の必要理由
欠陥生成を起こすために、ブランケット材中での状況に似た重イオンが必要である。材料の調整と実験条件の検討、再現性の確認等に、間隔を置いて数週間の時間を必要とする。
イオンビームの生体組織・材料分析への応用
(*)井手 亜里、モホド・ハムディ、渡辺 義徳、安井 のぶと、藤澤 茂義、敷根 俊輔。
(*)国際融合創造センター、工学研究科精密工学専攻
(詳細工事中)
RBSによる半導体結晶の評価
松波 弘之、木本 恒暢、須田 淳、黒部 憲一、中村 俊一、小野島 紀夫、根来 祐樹。
工学研究科電子物性工学専攻 機能物性工学講座半導体物性工学分野
1)研究の目的・背景
SiC(シリコンカーバイド)はp、n両伝導型の価電子制御が容易なワイドギャップ半導体であり、高い絶縁破壊電界、高い飽和ドリフト速度、高い熱伝導率を有することから、高効率パワーデバイス、高周波デバイス用材料として注目されている。
SiCでは不純物原子の拡散係数が極めて小さいために、Siで用いられる拡散法による選択的ドーピングは困難であり、イオン注入法が最も有効と考えられる。イオン注入による不純物ドーピングでは、注入損傷の評価とその制御が極めて重要である。
これまで我々の研究室では、RBSのチャネリング測定を用いてSiCにおけるイオン注入損傷とアニールによる回復過程を調べてきた。今年度もSiCエビタキシヤル単結晶に各種のイオンを注入したときに形成される損傷とRBSチャネリングにより定量的に評価することを目的とする。
2)独創性・新規性
SiCが優れた物性を有することは古くから知られていたが、単結晶の成長が非常に困難であるため、電子デバイスへの応用研究は立ち遅れていた。我々の研究室では、独自の方法によって高品質SiC単結晶の成長に成功し、この結晶を用いた物性制御や電子デバイスの試作に関する研究を行っており、この分野では世界への情報発信を行っている。
SiCへのイオン注入に関する研究でも最も早いグループの一つであり、注入損傷の評価と注入層の電気的性質の相関を明らかにすることは極めて重要である。
3)学会や社会への貢献
本研究によってSiCへのイオン注入に関する基礎研究を遂行することができ、応用物理学会、電子情報通信学会、および各種の半導体材料やデバイスに関する国際会議で論文発表する基礎データを得る事ができる。今までにない新しい半導体材料を中心とした固体物理学、応用物理学、結晶工学、電子工学の分野への寄与が大きいと考えられる。
また、本研究を通じて高性能SiCデバイスが実現されれば、電気エネルギーの利用効率を大幅に向上できるので、エネルギー問題や環境問題に貢献できる。
4)装置を必要とする理由とマシンタイム数の必要理由
高エネルギーのイオンビーム分析装置は近隣の研究室が所有しておらず、量子理工学研究実験センターの装置が最も利用しやすい装置である。また、SiC単結晶の作製とイオン注入に少し時間を要すること、および測定時には多数の試料をまとめて評価する方が定量的な比較が容易であることを考慮して、年間で1週のマシーンタイムを申し込みたい。
イオンビーム装置の開発とその応用に関する研究
石川 順三、後藤 康仁、辻 博司、鏡森 恵介、紀和 伸政、熊田 健一郎、本野 正徳、中原 宏勲。
工学研究科電子物性工学専攻 電子物理学講座 極微真空電子工学分野
1)研究の目的・背景(これまでの成果を含む)
石川研究室ではこれまで、イオンビームを用いた薄膜形成技術、イオン注入技術、エッチング技術などの開発に取り組んできた。最近の主たる開発技術は
- IBADによる遷移金属窒化物薄膜の形成と真空マイクロエレクトロニクスヘの応用、
- 絶縁物中への負イオン注入による超微粒子の形成、
- 負イオンビーム蒸着によるダイヤモンド薄膜の形成、
- 負イオン注入によるプラスチック材料の生体適合性改善、
等である。中でも遷移金属窒化物薄膜の真空マイクロデバイスヘの応用は近年、国内外でも注目されており、平成12年度発足の文部科学省科学研究費補助金「特定額域研究B」の課題として採択されるなど、その研究の重要性は非常に高くなっている。
これまでに、窒化ジルコニウムや窒化ニオブの成膜と物性把握、電子放出特性の評価を行い、遷移金属窒化物の持つ電子源材料としての潜在的な能力を確認してきた。
一方で負イオンビームの無帯電性を利用した絶縁物へのイオンビーム応用は今世紀の最大の問題とも言うことができる環境保全の分野において、酸化チタン光触媒の効率を高める可能性を秘めており、重要な研究テーマである。絶縁体にはダイヤモンドやプラスチック材料も含まれるが、これらの材料の表面処理は電子デバイス、材料の分野であり、我々としてはこれらの技術開発を積極的に推進していくつもりである。
このような技術開発の中にあって、デバイスや彼処理試料の組成や結晶性を知ることはプロセスヘのフィードバックをかける上でも重要である。
RBSやPIXEを利用した定量的な組成分析、微量元素分析などはこれら先進材料の膜質、注入層の特性を把握する上で不可欠である。
2)独創性・新規性
イオンビームを用いたプロセスで真空マイクロデバイスの陰極材料を形成する試みは世界的に見てもあまり例がない。
特にフリッカ雑音が少ないといわれるセラミックス系材料は酸化物を除いて合成が難しく、大抵は高温が必要であるのに対し、イオンビームを用いることでプロセスの低温化を実現し、ガラス基板上への成膜の可能性もある。
実際、平成12年度に中国において開催された国際真空マイクロエレクトロニクス会議で我々の試作したゲート電極付き窒化ニオブエミッタに関する発表は最優秀口頭発表賞第二位を授与されたはか、多くの質問が寄せられた。
負イオンビーム技術については、石川研究室が世界に先駆けて提案した新しい材料プロセスである。生体適合性の改善についても米国の研究者と共同研究を行うなど、国際的にも評価されている。
3)学会や社会への貢献(予想される成果を含む)
遷移金属窒化物については真空マイクロデバイスの当面の応用として期待されるフラットパネルディスプレイの安定化、実用化に大きく貢献するものと考えている。
特にイオンビームを利用する我々の技術はプロセス中に危険な金属やガスを使わないため、プロセスとしても安全であるばかりでなく、リサイクルする際にも他の材料と比較して好ましい。また、先にも述べたように負イオン注入による生体適合性の改善や光触媒の効率改善は直接我々の生活や生活環境を守るものであり、「人や地球に優しい技術」の開発で
ある。
4)装置を必要とする理由とマシンタイム数の必要理由
従来、年3過程度までのマシンタイム利用であったが、平成13年度は遷移金属窒化物が特定領域研究テーマに採用されていることからこれらの試料の分析を重点的に行う必要がある。
現在、W、X、Y族元素の窒化物・炭化物薄膜の形成を精力的に行っており、多数の試料の分析が必要なため、特に年度前半のマシンタイムを数多く必要とする。このため、ほぼ月に1回の5週の利用をお願いしたい。
またこれらはいずれもαを利用したRBSであるが、負イオンビーム蒸着によるダイヤモンド薄膜のホモエピタキシャル成長のテーマではプロトンによるRBSを必要としており、後期にはpで1.5週利用したい。
高速イオンと表面の相互作用
木村 健二、中嶋 薫、前田 謙一郎、太田 行俊、羽野 仁彦、辻岡 照泰。
工学研究科機械物理工学専攻 メゾスコピック物性工学
1)研究の目的・背景(これまでの成果を含む)
高速イオンが単結晶表面で小角散乱する際のエネルギー損失と2次電子放出数の同時計測を行い、エネルギー損失と2次電子放出数の相関を調べる。これにより、表面における高速イオンの非弾性衝突の素過程の解明を行うことを目的とする。これまでの研究で、2次電子放出数の測定結果から、表面からの位置に依存した2次電子放出率を導出出来ることを示した。また、散乱イオンのエネルギー損失の測定から、表面阻止能を導くことが出来ることも示した。これらの結果を理論計算と比較することにより、表面におけるエネルギー損失及び2次電子放出には、電子との単体衝突とプラズモン励起の両方が寄与していることを明らかにしてきた。
2)独創性・新規性
高速イオンと表面の相互作用に関する研究では、エネルギー損失と2次電子放出の研究は数多く行われ、表面阻止能や2次電子生成率の平均値に関しては明らかになってきた。この研究では、エネルギー損失と2次電子放出数の相関を調べることにより、表面散乱イオンのエネルギーロス・ストラグリングの起源を、実験的に明らかにすることが可能となる。
3)学会や社会への貢献(予想される成果を含む)
本研究により、表面散乱イオンのエネルギーロス・ストラグリングの起源が明らかになり、高速イオンと表面の相互作用の理解を深めることに寄与する。また、これまで研究から提案されている、表面におけるエネルギー損失過程、2次電子放出過程のモデルの正しさを検証することが出来る。
4)装置を必要とする理由とマシンタイム数の必要理由
本研究を行うためには、0.5〜2MeV程度のH+イオンビームが必要である。標的試料として、半導体であるSnTe(001)と KCl(001)の結果を比較したいので、1/2週間のマシンタイムを2回必要とする。また、イオンの原子番号依存性を調べるために、0.5 MeV/amu のHe+, Li2+, B3+, C3+のビームを使った実験を行うため、さらに1/2週のマシンタイムが4回必要であり、すべてを合計すると1/2週のマシンタイムが6回必要となる。
高分解能RBS法による表面分析
木村 健二、中嶋 薫、前田 謙一郎、太田 行俊、羽野 仁彦、辻岡 照泰。
工学研究科機械物理工学専攻 メゾスコピック物性工学
1)研究の目的・背景(これまでの成果を含む)
これまでに開発した高分解能RBS装置を用いて、シリコン(100)表面の酸化初期過程の研究を行ってきた。昨年度から(111)表面の酸化初期過程の研究を始めたが、散乱槽中に残留している水が酸化初期過程に影響していることを示唆する結果が得られた。今年度は、
@水蒸気の分圧をコントロールした条件での実験を行い水蒸気の影響を明らかにすることを目標とする。また、A次世代のULSIのゲート絶縁膜として使用される極薄シリコン酸窒化膜中の窒素の分布を、高分解能RBS法で精度良く測定する手法を開発し、絶対測定が難しいSIMS等の分析法の較正に利用する方法を開発する事を目標とする。さらに、BCVDダイヤモンドの表面領域の水素分布を高分解能ERD法により測定し、CVDダイヤモンドの表面伝導層の発現機構の解明を行う。
2)独創性・新規性
高分解能RBS法は、原子レベルの深さ分解能をもって定量性良く表面領域の元素分析が可能な優れた分析法である。高分解能RBS法を用いて、従来は非常に困難であった上記の研究が可能になる。
3)学会や社会への貢献(予想される成果を含む)
シリコン表面の酸化初期過程の研究によって、ますます薄くなっているULSIのゲート酸化膜の高品質化のために必要な知見を得ることが出来る。極薄シリコン酸窒化膜中の窒素の分布を、高い深さ分解能で精度良く測定することは、次世代のULSIのゲート絶縁膜として期待されている極薄シリコン酸窒化膜の作成法・プロセス技術開発のために必須であり、これを通じて次世代のULSI開発に貢献することになる。ダイヤモンドは高温での使用が可能な素子や高出力素子への応用が期待されている。CVDダイヤモンドのp型の表面伝導層は、すでに素子の試作に利用されているが、未だにその発現機構が不明である。この研究によって、表面伝導層の発現機構が解明されれば、CVDダイヤモンドの更なる応用に道を開くことが出来る。
4)装置を必要とする理由とマシンタイム数の必要理由
研究の目的で述べた3つの研究を行うためには、比較的強いビーム強度の大きい(数十nA/2mm X 2mm)エネルギー安定度の良い350〜500keVのHe+、C+のビームが必要であり。量子理工学実験研究センターのヴァンデグラーフ加速器が最適である。3つの研究それぞれに2週間のマシンタイムが必要であり、合計6週間が必要になる。
半導体と金属薄膜の界面反応
村上 正紀、守山 実希、浅水 啓州、小西 信也、小西 亮平、増田 晴樹、村井 俊介。
工学研究科材料工学専攻 マイクロ材料学分野
1)研究の目的・背景(これまでの成果を含む)
半導体デバイスは、21世紀のあらゆる産業分野の基板技術になるものと考えられ、それに向けてデバイスの高性能化、新機能性デバイスの実現、デバイス作製プロセスの革新が重要な課題となっている。本研究は、このような時代の礎を築く高性能半導体光・電子デバイス用の電極材料および配線材料の研究・開発を、材料学的立場から行う。究極的には、電極材料および配線材料の「材料設計原理」構築を目指すものである。
2)独創性・新規性
研究課題である「半導体と金属薄膜の界面反応」は、現在の情報化社会を支える半導体高速電子デバイス・光デバイス等の性能を左右する半導体と金属薄膜(配線材料・電極材料)との界面を扱っている点で非常に重要な課題である。半導体に対する金属電極材料・配線材料の開発を行っている材料系学科は殆ど皆無である。冶金学的な視点と電気的な視点から研究を行うことにより、新電極材料・配線材料の開発が可能である。半導体デバイスの電極材料・配線材料に対する要求は、電気特性のみならず、熱安定性、再現性、プロセス簡便性など多岐にわたる。従来の材料開発は、電気的見地からの試行錯誤による開発が主であったが、要求をすべて満足する材料の開発は極めて困難であり、材料学的見地からの開発指針構築が求められている。
3)学会や社会への貢献(予想される成果を含む)
この研究課題による知見は、学問的分野に対する寄与のみならず、実際の半導体デバイス作製工程に関する寄与も多大なものがある。次世代の半導体デバイスの可能性を広げる高性能電極材・配線材作製プロセスが実現し、デバイスの普及を促進するばかりでなく、次世代の素子設計に対して多大な影響を与えると考えられる。
4)装置を必要とする理由とマシンタイム数の必要理由
本研究において最も重要な事は、半導体に対する電極材料・配線材料の電気特性と、金属薄膜/半導体界面の微細構造との関連を明らかにする事である。RBSでは、非破壊かつ短時間で、薄膜試料における各構成元素の濃度分布・拡散挙動等に関する情報を得ることができる。そのため、RBSは本研究において極めて有効な分析手法であり、当専攻が所有するX線回折装置・透過型電子顕微鏡等と併用する事で、より詳細な構造解析が可能になると考える。 昨年度はRBSについて、2回(1週)実施した。本年度は、研究対象材料の変更を予定しており金属/半導体間の反応解析において、RBSを用いた解析の有効性が増すことが予想される。したがって本年度は、昨年度よりも1回多い、年3回(1.5週)のマシンタイムを希望する。
イオンビームを用いて作製した薄膜の結晶性および組成の解析
高岡 義寛、松尾 二郎、瀬木 利夫、津村 一道、大久保 千尋、中井 敦子。
工学研究科附属イオン工学実験施設
1)研究の目的・背景(これまでの成果を含む)
これまでクラスターイオンとモノマーイオンとの違いについて様々な角度から検討を加えてきた。特に、クラスターイオンによって形成される結晶欠陥について、チャネリング法を使って調べ、クラスターイオンの持つ特異性について明らかにしてきた。また、クラスターの持つ特異な現象を使い、ナノテクノロジーに代表される先端デバイスの表面処理技術に用いる研究を行ってきた。
2)独創性・新規性
原子分子の集合体であるクラスターの表面衝突現象は、モノマーイオンとまったく異なるのものである。クラスター衝突時に起こる現象がモノマーに比べてクラスターサイズ倍(線形性)にならない現象を明らかにし、非線形照射効果と呼んでいる。この現象は、従来の理論ではまったく説明できない新規な現象であり、様々な分野から興味をもたれている。
3)学会や社会への貢献(予想される成果を含む)
クラスター衝突は、イオンビームの研究分野において新規な学問分野を提供しているだけでなく、実用的なプロセス技術としても高い注目を集めており、基礎・応用両面から研究が進んでいる。これらの研究により、非線形照射効果の解明やそれを利用する先端プロセス技術などの開発が期待されている。
4)装置を必要とする理由とマシンタイム数の必要理由
これまで進めてきた結晶欠陥の評価を進め,本年度は欠陥形成が起こらないしきいエネルギーとクラスターサイズとの関係の明らかにする。すでに数百万原子の基板にクラスターイオン衝突させる大規模な計算機シミュレーションを進めており、理論実験の比較を進めながら検討を行う。
原子核工学専攻の学生実験
1)研究の目的・背景(これまでの成果を含む)
「イオンビーム分析実験装置」は、設置以来工学部原子核工学科ならびに物理工学科原子核工学サブコースの学生実験に利用されてきた。受講学生は、イオンビームの発生,取り扱い,性質などについて実地に理解を深め、あわせてイオン源,高電圧発生装置,真空装置,電磁石,電源装置,パルス計数装置など、研究開発,工業生産などで汎用的に使用されている装置の原理や取り扱いを身につけている。
毎年20名以上の学生がこの学生実験を履修し、総履修者数は数百名にのぼっている。
2)独創性・新規性
学部3回生の段階で数億円規模の装置を使って学生実験を実施している例は(おそらく)他にはない。実験中は、学生自身がある程度の加速器操作を自ら行う。米国海軍の例を引くまでもなく、実地の操作体験が最高の理解をもたらしてくれる。
3)学会や社会への貢献(予想される成果を含む)
人生高々100年。教育そのものが人間の本能の一つであり、教育による継承と発展のみが、我々に穏やかな死を保証する。合掌
4)装置を必要とする理由とマシンタイム数の必要理由
本学生実験で利用する加速器は、学部3回生が通える範囲にあると共に、絶え間なく整備が行われ、未習熟の学生が操作することを許容する度量を有した装置であることが必要である。量子理工学研究実験センターの加速器のみがこの条件を満たす。
mailto:webeditor@qsec.kyoto-u.ac.jp
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